2010年11月30日

演劇集団キャラメルボックス『サンタクロースが歌ってくれた』アナザーキャスト

 今回観たこの舞台は、別キャストでの上演もされている。というより、今回観た方がアナザーなのだが。

 もう一方のキャストバージョンは、まさに25thスペシャルで、昔からのキャラメルファンの方には嬉しすぎるくらいのメンバー。というのも、以前この劇団に所属していた方が出演しているからだ。その人物は上川隆也さんと近江谷太朗さん。この二人はすでに退団しているので、もう出演することも難しいところだが、今回、それが叶った。それにより、同劇団所属の西川浩幸さんとのトリオが実現した。

 そんなスペシャルキャストとは違った、このアナザーキャスト版。こちらもこちらで、スペシャルである。それは、最近ではあまり舞台に立つことが少なくなった役者が出演しているからだ。スタッフとして舞台に関わってはいらしたが、役者として舞台に立たれているのは自分が観に行くようになってからは見たことがなかった。だから、ある意味レアなメンバーが出演していたこのアナザーキャスト版。

 感想としては、脚本・演出の成井さんが“代表作だ、と胸を張って言える作品”とおっしゃるとおり、発想、そして内容も大変面白かった。実は、この作品は自分にとっても特別な作品なので、やっと生で観ることができて大変嬉しいことである。この作品と出逢っていなければ、今、こうして“趣味は観劇だ”ということを言っていなかったであろう。

 あれはいつか忘れてしまったのであるが、昔、この演目がテレビで放送されていて、それをたまたま見たのだ。その日は、ゲームをしようと思ってテレビをつけた。そうしたら、この演目が放送されていたのである。それをゲームの用意をしながら見ていたら、なんだかすごく引き込まれるものがあり、ゲームをせずにそのままそれを最後まで見てしまった。見終わったあと、“舞台ってこんなに面白いのだ”と素直に思ったことを覚えている。それが頭の片隅にあり、数年後、ふとそのことを思いだし、そのとき劇団名を覚えていたので、調べてみたというわけだ。そして、なんやかんやあって、今に至るわけである。
 だから、この舞台をテレビで見ていなければ、舞台好きにはなっていなかったのであろうし、今の自分はなかったと思う。そう考えると、この演目との出逢いは、大変大事なものであったのだと思っている。

 こういう自分の経験もあるので、その人が舞台好きになるかは、出逢う舞台によって変わると思う。その人にあっている舞台を観られれば、一発であろうし、そういうものに出逢えなければ、どんなに有名で人気のある舞台であってもダメであろう。

 ときどき、舞台に興味はあるが……、という人に出逢う。その中には、以前に観に行ったことはあるのだがつまらなかった、という人もいた。そういう人には、その人の好きな感じのことを訊いて、それでアドバイスをすることもある。

 そんな風に、舞台に興味を抱いてくれている人は意外といるものである。そういう人たちを舞台好きにしていくことができたら、今のような、舞台離れという現状は打開できるのかもしれない。


 この続きは、これからこの舞台を観に行く予定のある方は読まない方がいいかもしれない。とはいっても、ネタバレするようなことはそんなに書いていないとは思うのだが。
 
 

 だいぶ逸れてしまったが、話を戻そう。
 いろいろ考えさせられる部分があった。恐らく、この作品はただ映画の中の人物が出てきてどうこう、という作品ではない。そこから“なにを感じとれるか”というところが大事だと思う。
 「僕らには今しかない」という芥川の言葉。これは、映画の中ではひたすらに同じことを繰り返しているので、未来なんぞは自分たちにはないのだ、ということである。現実では、たしかに一瞬一瞬で未来に行き、そして、それはすぐに今になる。その繰り返しで時間というのは進んでいくわけで、それは未来へ進んでいるということである。しかし、今、という時間はいってみれば点でしかない。これは、他の過去や未来と違って、今、という時間は後にも先にもないものである。ずっと未来へ進んでいき過去へ戻ることはない、ということでは映画の中とは違うが、今、というものが大事だ、ということでは相違ない。
 「僕らの映画は僕らのもの」。これは、映画の中の人物は、ずっとその脚本どおりに何回も何回も同じものを演じてきた。しかしそうではなくて、映画というのは自分たちのものなのだから、自分たちで考え進めてこの映画を作っていこうということである。そうすることで、今しかない、という現状に未来が生まれる。毎回なにかが違うものになるからだ。現実だってそうだ。その人の人生はその人のものであり、誰かのものではない。だから、いろいろな場面において選択を強いられる。その選択如何では、その後の人生が変わったりするものである。でも、そうなること自体が、その人自身の人生だという証拠にもなる。
 ここまで書いておいてなんだが、なんか、自分で書いていてもよくわからなくなったので、このくらいにしておく。
 最後に、やはり、もう一方のキャストバージョンも観たかった、というのが本音。しかし、チケットが取れなかったのだから仕方がないと諦めて、DVDになるのを待とうと思う。





演劇集団キャラメルボックス 25th 4.5 2010クリスマス・スペシャル 「サンタクロースが歌ってくれた」 アナザーキャスト 10days Limited Version
2010年11月18日(木)~2010年11月28日(日)
サンシャイン劇場
CAST
芥川―――大内厚雄
太郎―――岡田達也
警部―――阿部丈二
ゆきみ――井上麻美子
すずこ――小林千恵
サヨ―――真柴あずき
フミ―――伊藤ひろみ
ハナ―――原田樹里
ミツ―――岡内美喜子
巡査―――畑中智行
奥様―――石川寛美
監督―――左東広之